NEC、東北大学病院、橋本市民病院、「医師の働き方改革」に向けて、医療現場におけるLLM活用の有効性を実証

日本電気株式会社(以下「NEC」^※1)と東北大学病院^※2は、「医師の働き方改革」に向けて、生成AI（Generative AI）における日本語大規模言語モデル（Large Language Model、以下「LLM」）を活用し、電子カルテなどの情報をもとに医療文書を自動作成する実証実験を行った。

実証の結果、医療文書の作成時間を半減し、業務効率化の可能性を確認した。また、NECと橋本市民病院^※3も、同様の実証実験を本年10月から行っている。

LLMで電子カルテから医療文書を自動作成

背景

少子高齢化による労働力の減少が進む昨今、医療現場でも人手不足が深刻化しており、医師や看護師への負担が増大している。

一方で、2024年4月には「医師の働き方改革」の新制度が施行され、勤務医の時間外労働時間に上限が設けられる。医療現場では医師の業務効率化がこれまで以上に重要になり、医療業務のDXによる効率化が期待されている。

各病院における実証実験の内容

NECと各病院は、医師の業務のうち「記録・報告書作成や書類の整理」が時間外労働の主な原因の一つになっている点に着目し、医療業務向けにチューニングしたLLMなどのAIを医療文書の作成に活用し、有効性を検証している。各病院における取り組みは以下の通りである。

1.東北大学病院における実証の概要と結果

期間：2023年10月～11月
今回の実証では、NECが開発した医療テキスト分析AIを活用し、電子カルテに記録された患者の症状、検査結果、経過、処方などの情報を時系列に整理した。そして、NECのLLMを活用し、治療経過の要約文章を自動で生成可能とした。

生成された要約文章は、引用元である電子カルテの記載内容を関連付けて表示しているため、医師がエビデンスを効率的に確認することが可能であり、ハルシネーション^※4と呼ばれる生成AIの正確性や信頼性の問題への対策にもなる。

実証は東北大学病院の一部の診療科の医師10名の協力のもとで行った。その結果、紹介状や退院サマリ^※5などに記載する要約文章を新規に作成する場合と比較して、作成時間を平均47%削減でき、文章の表現や正確性についても高い評価を受けた。

これにより医師は、膨大な電子カルテの記録から必要な情報を収集する作業を大幅に軽減し、生成された要約文章を参考にしながら各文書を効率的に作成できる可能性があることを確認した。

2.橋本市民病院における実証の概要

期間：2023年10月～2024年3月(予定)
実際の医療現場でLLMを活用するためには、各医療機関で独自のLLMシステムを保有することは難しく、電子カルテから必要な情報をクラウド上のLLMに連携し要約文章を生成する仕組みが求められている。

NECの電子カルテシステム「MegaOak/iS(メガオーク/アイエス)^※6を使用している橋本市民病院は、以前から電子カルテの情報の匿名化についてNECなどと共同研究を行っている。

今回の実証では、匿名化された電子カルテの情報を「MegaOak Cloud Gateway」^※7を介してクラウド上のLLMに安全・シームレスに連携し、個人情報を学習させないように配慮しながら要約文章を生成している。

今後は、要約文章の精度向上に加え、退院サマリだけでなく、長期間にわたる治療経過に関する要約文章の生成についても実証を行う。また、操作性の向上を目指し、電子カルテの画面上に新設した「LLM」のボタンをクリックするだけで、要約文章を自動生成する機能も実装する予定である。

今後の展開

NECは今後、LLMと音声認識を組み合わせた医療文章の作成支援や、LLMを活用した症状詳記^※8などの医療文書の自動作成に関する実証も行う予定である。

これらを踏まえ、LLMを活用した医療機関向けのソリューションを2024年内に提供開始する予定である。

NEC、東北大学病院、橋本市民病院は今後も共創活動を強化し、医療業務におけるDXを加速することで、医療の質向上と働き方改革の実現に向けた取り組みを進めていく。

※1　本社：東京都港区、取締役 代表執行役社長 兼 CEO：森田隆之
※2　所在地：宮城県仙台市、病院長：張替秀郎
※3　所在地：和歌山県橋本市、病院長：駿田直俊
※4　ハルシネーション：生成AIが誤った情報を、もっともらしい形式で出力してしまう現象。
※5　退院サマリ：入院患者の病歴、入院時の身体および検査所見、入院中に受けた診療内容などについての要約書。診療内容の検証や退院後の外来診療などにおいて、主治医以外の医療従事者が、入院中の治療や診断情報を把握するために重要な記録。
※6　電子カルテシステム「MegaOak/iS」：
https://jpn.nec.com/medical_healthcare/solution/is/index.html
※7　クラウドセキュア接続サービス「MegaOak Cloud Gateway」：
https://jpn.nec.com/medical_healthcare/cloudgateway/index.html
※8　症状詳記：医療機関は、診療報酬のうち保険料部分を保険者に対して請求する際、レセプト(診療報酬明細書)を提出する。しかし、レセプトだけでは診療内容の説明が不十分な場合に症状詳記という文章を加えて補足説明する。医師は、通常診療に加えて症状詳記の作成も必要となるため、負担が大きい業務の1つと認識されている。

▪問い合わせ
NEC ヘルスケア・ライフサイエンス事業部門 医療ソリューション統括部
E-Mail：press@med.jp.nec.com

東北大学病院 産学連携室
電話：022-717-8730
E-Mail：sangaku.tuh@crieto-asu.hosp.tohoku.ac.jp

橋本市民病院 診療情報課
E-Mail：kouhou@hashimoto-hsp.jp