2025.04.15
聖路加国際病院女性総合診療部では、帝王切開瘢痕症候群(CSDi, 帝王切開子宮瘢痕症)(注1)に対する腹腔鏡下手術(注2)として腹腔鏡下子宮瘢痕部修復術(注3)を行っている。この手術の問題点は、子宮の外側から観察できない子宮の内側にある「へこみ」を過不足なく切除することである。
今回、その問題点を解決する手術方法として「Taurus T method」を開発し、その術式についての論文が米国生殖医学会誌Fertility and Sterilityに掲載された。
・「Taurus T method」は、子宮の内側にある凹み(病変部)を子宮鏡下にまっすぐな針でマーキングを行い、子宮の外側(腹腔鏡下)から病変部の部位がわかるようにする。その後、腹腔鏡下で針によるマーキングをガイドに病変部位をT字切開することで、病変部を正確に過不足なく切除することが可能になる。
・この新しい術式により、病変部(凹み)を過不足なく切除することが可能になり、症状の再発率の低下や過剰切除による流産、早産などの周産期リスクの低減が期待できる可能性がある。
帝王切開は世界中で広く行われる手術の一つで、日本でも全分娩の20~30%が帝王切開である。帝王切開後、一部の方で子宮を切開した創部の内側にへこみ(陥凹)ができることがある。この「へこみ(陥凹)」が原因となって月経血や粘液が貯留することがあり、結果として、不妊症や月経困難症(注4)などを引き起こす帝王切開瘢痕症候群を発症することがある。
聖路加国際病院女性総合診療部は、新たな腹腔鏡下手術の術式として「Taurus T method」を開発し、その術式を説明した論文が米国生殖医学会の英文誌Fertility and Sterilityに掲載された。
「Taurus T method」は以下の3つのステップで行う。
1. 子宮鏡(注5)で子宮内のへこみを観察しながら、腹腔鏡側から瘢痕の上下端を針でマーキングする。
2. 子宮の内側から瘢痕を押し上げ、子宮の上部を後ろに曲げることで、瘢痕が挙上する。その際に、マーキングに用いた針が牡牛の角のように開く。この状態を「Taurusサイン」と呼ぶ。
3. 腹腔鏡下で、針のマーキングをガイドにして、病変部(瘢痕)にT字型切除を行う。この手順によって、腹腔鏡下病変部を直視下に正確に切除することが可能になる。
また、症状の再発率の低下や過剰切除による流産、早産などの周産期リスクの低減が期待できる可能性がある。
(注1)帝王切開瘢痕症候群(Cesarean Scar Disorder: CSDi, 帝王切開子宮瘢痕症)
過去に帝王切開をした経験がある人に発症する疾患で、子宮を切開した創部に「へこみ(瘢痕)」ができることがあり、その「へこみ(瘢痕)」を原因として、不正出血や茶色の帯下、月経痛の増悪、不妊症などの症状を引き起こす疾患のことである。帝王切開子宮瘢痕症ともいう(図1)。
(注2)腹腔鏡下手術
腹腔鏡下手術は、腹部の小さな切開からカメラ(腹腔鏡)と専用の器具を挿入して行う、低侵襲の手術方法である。これにより、傷口が小さく、痛みが少なく、回復も早いのが特徴である。また、腹腔鏡による拡大映像で手術部位が詳しく確認できるため、精密な操作も可能になる。
(注3)腹腔鏡下子宮瘢痕部修復術
帝王切開瘢痕症候群、帝王切開子宮瘢痕症に対して腹腔鏡下で病変部(凹み)を切除し、縫合して修復を行う手術のことである。帝王切開創の子宮瘢痕部(凹み)を原因とする続発性不妊、過長月経、月経困難症といった症状を伴う場合にこの手術を行う(図2)。
(注4)月経困難症
月経(生理)の期間中に強い下腹痛、腰痛や、吐き気、頭痛、疲労感などで日常生活に支障をきたしている状態のことである。
(注5)子宮鏡
子宮鏡は子宮の内側の状態を直接観察するために使われる内視鏡である。具体的には、腟から子宮の入り口から子宮鏡を挿入し、内蔵されたカメラと光で子宮内を観察できる。これにより、子宮内膜の異常やポリープ、子宮筋腫などを診断し、切除などの治療を行うこともできる。
論文タイトル
A Novel Approach for Cesarean Scar Defect Repair : Translating Hysteroscopic Markings into Laparoscopic Precision with the Taurus T Method
著者
Yusuke Sako, MD(佐古悠輔); Tetsuya Hirata, MD, PhD(平田哲也)
所属
聖路加国際病院 女性総合診療部
掲載誌
Fertility and Sterility(アメリカ生殖医学会英文誌)
DOI
10.1016/j.fertnstert.2025.03.034.
URL
https://www.fertstert.org/article/S0015-0282(25)00207-9/fulltext
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40189188/
【問合せ先】
学校法人聖路加国際大学 法人事務局 広報課
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TEL:03-6226-6366 FAX:03-6226-6376 E-mail:pr@luke.ac.jp
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