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2021.12.14

三重大学の研究チーム、「包括的心臓CT」により、冠動脈狭窄の正確な診断が可能であることを世界初の国際多施設研究で実証

  1. 多施設研究
  2. 心臓CT(冠動脈CT)
カテゴリ
技術開発・臨床研究
情報提供元
国立大学法人 三重大学大学院 医学系研究科

 

■わが国で年間50万件行われている心臓CTは、胸痛を訴える患者に対し、冠動脈狭窄の有無は診断できるが、治療方針の決定には、心臓核医学検査や心臓カテーテル検査を必要としてきた。

■しかし、心臓核医学検査は4時間を要し、また心臓カテーテル検査は侵襲性が高いため、患者にとって負担が少ない冠動脈狭窄の診断方法の開発が世界でも長く課題とされてきた。

■この研究では、狭窄の有無診断を行う「冠動脈CT」と心筋虚血の評価を行う「ダイナミック心筋血流CT」を併用し、両者の結果を総合的に判断することにより、CT検査のみで治療の必要な冠動脈狭窄を正確に診断できることを、世界で初めて多施設研究によって実証した。

■さらに、心筋虚血評価に用いるダイナミック心筋血流CTは、複数の冠動脈に狭窄が疑われる症例で実施すると診断に効果的であることが明らかとなった。

概要

三重大学大学院医学系研究科先進画像診断学の北川覚也教授、同循環器・腎臓内科学の土肥薫教授らの研究グループは、狭心症や心筋梗塞などの原因となる冠動脈狭窄※1を診断する心臓CT検査において、冠動脈CTおよびダイナミック心筋血流CT※2を組み合わせた「包括的心臓CT」により、これまでCT検査のみでは不可能とされてきた、冠動脈狭窄の正確な診断が可能であることを、世界で初めて多施設研究によって明らかにした。

心臓では主に動脈硬化により冠動脈狭窄が起こり、従来のCT検査では、そうした狭窄を高い精度で見つけ出すことができる。その一方で、治療対象とならない軽い狭窄をも写し出し、中には重度の狭窄であるように描出されることもしばしばある。

治療を必要とする狭窄かどうかを見極めるには、さらに患者の時間的・身体的負担にもなりかねない心臓核医学検査や心臓カテーテル検査の実施が推奨されている。

本研究は、この包括的心臓CTを活用すれば、患者の負担を大幅に軽減できる一度の検査で、正確な診断が可能であると示すことができた。この診断に基づけば、冠動脈狭窄の部位・状態、さらには胸痛などの根本原因となっている部位までを特定することが可能になる。

また、特に冠動脈に複数の病変が認められる場合に、この包括的心臓CTの診断精度が高く発揮されることも明らかにされた。

これまでも単施設を対象とした研究で、包括的心臓CTの診断能が良好であるとの報告があったが、一般に単施設研究では多施設研究と比べて、厳選された患者を対象にエキスパートの手によって実施されることが多いため、結果が高く算出されることが知られている。

一方、今回の多施設研究に参加した施設は、三重大学病院を除き、包括的心臓CTの実施経験がない。それでも高い診断能が実証されたことは、包括的心臓CT検査の普及に向けた重要なステップになったといえる。

三重大学、東北大学、愛媛大学、北京協和医科大学、高崎総合医療センター、神戸大学、済生会松山病院、鹿児島医療センターの国際共同研究によるこの成果は、心血管疾患領域で権威ある世界的な学術誌『Journal of the American College of Cardiology』にオンライン掲載(2021年11月8日)されたほか、同冊子版11月16日号のトップに掲載された。

背景

近年、慢性冠動脈疾患の診断に心臓CTが広く用いられ、わが国だけでも年間50万件が実施されている。しかし、心臓CTで確認できる冠動脈狭窄の中には、血流低下を引き起こして心筋に酸素が足りない「心筋虚血」を生じさせるもの(治療を必要とし、治療により改善が見込まれる)と、一見強い狭窄であっても心筋虚血を伴わず、治療の必要性が低いものが含まれる。

このいずれかの狭窄が認められた患者のうち、前者にあたるのは約30%といわれているが、従来は、それを確認するために、心臓核医学検査や心臓カテーテル検査を行うことが推奨されている。

ところが心臓核医学検査には約4時間を要し、また心臓カテーテル検査は侵襲性が高く入院が必要となることが多いため、検査における患者負担が課題となってきた。そのため、できるだけ低侵襲な検査により冠動脈狭窄を精度よく診断できる方法がかねてより望まれてきた。

研究内容

当研究では、三重大学の研究チームが主導した国内6施設、中国1施設が参加する多施設共同研究において、心臓CTの際に冠動脈狭窄の有無に加えて、心筋虚血の評価を行う包括的心臓CT検査を行い、その診断データの分析と検証を通じて、(1)治療の必要な冠動脈狭窄は、冠動脈CT単独よりも心筋ダイナミック血流CTによる心筋虚血評価を組み合わせることでより正確に診断できること、(2)ダイナミック心筋血流CTの有効性は、冠動脈CTで複数の枝に病変があるときに特に高いこと、を明らかにした。

今後の展望

本研究成果は、包括的心臓CT検査が、虚血を引き起こす冠動脈狭窄をどれほど正確に診断できるか、どのような患者で有用なのかを世界で初めて多施設共同研究によって明らかにしたものである。

今後は、一度の検査で慢性冠動脈疾患の治療方針を決定できる包括的心臓CT検査の普及が進み、患者にとって低侵襲かつ短期間で必要な治療を開始できるようになることが期待される。

※1 冠動脈狭窄: 心臓を栄養する血管(冠動脈)に狭窄が起こると運動時などに心筋への酸素供給が不十分(心筋虚血)になり、胸痛が生じる(安定狭心症)。冠動脈CTを使うと軽い狭窄から強い狭窄まで見つけられるが、どの狭窄が心筋虚血の原因なのかを正確に診断することは難しいことがある。

※2 ダイナミック心筋血流CT: 造影剤注入後の30秒間に心臓全体のCT画像を2~3秒に1回繰り返し撮影し、造影剤が心臓を通過する様子を観察する方法。心筋血流を定量評価できることを特長とする新しい心筋虚血診断法で、2010年頃より臨床研究が盛んになっている。

■論文情報
掲載誌: Journal of the American College of Cardiology
掲載日: 2021 年 11 月 8 日 (Online 版)
https://doi.org/10.1016/j.jacc.2021.08.067
2021 年 11 月 16 日号 (冊子版)
J Am Coll Cardiol. 2021 Nov, 78 (20): 1937–1949
論文タイトル: Diagnostic Performance of Dynamic Myocardial Perfusion Imaging
using Dual-Source Computed Tomography
著者: 北川覚也、中村哲士、大田英揮、小川遼、静毅人、久保忠弘、易妍、伊藤達郎、永澤直樹、大森拓、中森史朗、栗田泰郎、杉澤潤、中島均、王怡宁、城戸輝仁、渡辺浩毅、松本泰治、土肥薫、佐久間肇

関連先リンク: https://www.medic.mie-u.ac.jp/
TEL:059-231-5029

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