2014年1月号
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映像情報メディカル 2014年1月今井)現在は新潟大学医学部保健学科の教授でいらっしゃる高橋先生は、新潟市民病院、いわゆる一般病院で死亡時画像診断に取り組んでこられた。私たちがぜひお聞きしたい先生である。高橋)すでに一般病院では、死因究明を目的としたAiが行われている。実際に臨床の放射線科の先生方がAiを読影する際に参考になる話をしたい。今日の講演の内容は、以前在職した新潟市民病院で行ったものである。いくつかの調査から、突然死の救急患者に対して、法的剖検制度の不備な地方で死亡時のCTが行われているという状況が明らかにされている。臨床の放射線科医が接する機会が最も多いAiは、救急領域の死亡時のCTということになる。救急領域のAiには、いくつかの特徴がある。まず、救急領域のAiの症例では、剖検が行われることはまれである。突然、心肺停止状態で病院に搬送された場合、遺族は非常に動転している。搬送された病院にもそのときに初めて訪れる場合が多く、病院と遺族の関係は希薄であり、解剖の承諾を得ることは難しい。次に、病院で死亡が確認されてから、せいぜい3〜4時間のうちには検査が行われるため、早期の死後変化が生じる。法医学領域のように死後数日という場合はない。そして、救急隊が対応した場合、必ず心肺蘇生術を行うので、心肺蘇生術後の変化によって修飾される。死亡時CTで死因がどれくらいわかるか。これまでいくつか論文が発表されている。外傷死については、比較的最近の薄いスライスのCT装置を用いた検討では、死因の80%以上で致死的な所見を認め、特に骨折や体腔内の気体は剖検以上の検出率であるとされている。ただし軟部組織については、評価がむずかしい場合がある。一方、非外傷死についての研究は、昨年の前半に死亡時CT所見を剖検所見と対比した論文が相次いで発表された(図1)。最も有名なものはランセット誌に病理医が発表したイギリスの成人の死亡時画像と剖検との比較の検討。ドイツからはICUでの検討、私たちの施設から救急外来で亡くなった方の検討、それから千葉大法医学の笠原先生が行った検討がある。これらの研究の結果を大きくまとめると、脳出血、くも膜下出血、胸腔内出血、腹腔内出血、後腹膜出血などの出血性疾患を中心に3割程度で死因の診断が可能とされる。この3割という数字はあまり大きくないため、Aiでは死因がわからない、という印象をもつ方もいるかもしれないが、体表からは判断できない死因の3割程度で死因が判断できることに注目してほしい。死亡時CTを読影するうえで注意すべき所見として、死後変化や心肺蘇生術後変化がある。急死の場合に赤血球が背側に沈降する血液就下という死後変化があるが、こうした血液就下が頭蓋内に見られる場合、頭蓋内出血と誤られる場合がある。図2は0歳の女児で、朝、布団の中で心肺停止状態で発見された。死亡時の頭部CTで頭蓋内の背側に高吸収域が認められた。高吸収域は横静脈洞、上矢状静脈洞、直静脈洞と、正常の静脈洞に一致しており、この所見は血液就下と判断した。剖検が行われ、脳表や脳室内には出血がなく、背側の高濃度域は静脈洞内の血液就下であり、正常の死後変化であったことが確認された。また心肺蘇生術後の変化として、ほとんどの症例で肋骨骨折が認められる。こうした肋骨骨折を外傷によるものと心肺蘇生術によるものに区別し高橋直也新潟大学大学院 保健学研究科(前 新潟市民病院放射線診断科)特別企画【シンポジウム】死後画像診断(Ai)の現状と将来臨床放射線科医にとっての死亡時画像診断のために

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