2014年1月号
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当院では、M&Mカンファレンスやデスカンファレンス、事例検討会といったものがしばしば開催されているが、ほとんどの事例で画像を撮っており、放射線科医は必ず出席を要請される。医療の質・安全評価に放射線科医の関与は必須である。⑥研修医の教育60代の男性が筑波大学で肺がんの治療された後、亡くなる1ヵ月前に当院の緩和ケア病棟に転入院された。死亡5日前に突然の激しい頭痛を訴えたのちに徐々にレベルが低下して亡くなられた。亡くなる数ヵ月前の生前CT、MRI解剖前の死後CT、MRIと比べると、多発脳転移は消失もしくは縮小していたが、一部脳転移が出血を起こしており、これは解剖でも確かめられた。頭痛が起きた原因はこれだったと考えた。また、肺がんは増大しており、生前には指摘されていなかった多発肝転移を、MRIで指摘することができた。特に緩和ケア病棟に入院される方は、亡くなるまで数ヵ月間、画像がまったく撮影されないことが少なくない。このような方の解剖と生前画像を比較しても、近似的な比較にしかならず、厳密な意味での病理画像相関はできない。死後画像を撮影することによって、それができるようになる(図4)。われわれ放射線科の1つの仕事として画像と病理の比較があるが、今後、劇的な解剖率上昇が望めない中、Aiを併用できた解剖症例は非常に貴重である。そして研修医はCPC(臨床病理カンファレンス)や論文執筆で、放射線科の仕事である画像病理相関を理解することができている。実際、先ほどの症例は研修医がCPCで発表して英文論文として出版した。今井)筑波メディカルセンターは、死亡時画像診断をするうえでまさに理想的な施設である。先ほど飯野先生が提言された放射線科医と法医学者とのコラボレーションをまさに具体的に示している施設だと思う。検視官、法医のほか、画像診断医と、それら3者が一緒になって死因究明のための解剖をするかどうかを決めるというところは本当に素晴らしい。内閣府の会議でも、どのような施設を整備するか検討しているが、やはり首都圏にVol.46 No.1【シンポジウム】死後画像診断(Ai)の現状と将来特別企画をやってから解剖するかどうか決めるという流れになるであろうし、当院ではすでにそのようになっている。ちなみに死亡時の画像診断が最も進んでいるのは日本とイギリスだが、イギリスの保健省は、「画像診断は解剖の補助または代替として国民保険サービス内で実行可能か」というレポートを発表している。そして、すでに放射線科医会と病理専門医会の合同で、「死後画像診断の実践の手引き」を作成している。⑤入院患者の急変・突然死これは医療の質・安全という面から見ていく。脳外科に入院中の60代の男性で、入院1週間後に突然亡くなった。死後CTで、腹部大動脈瘤が破裂したことがわかった。60代の女性。ヘパリン起因性血小板減少症で入院されていたが、胸腔■刺の半日後に急変して亡くなった。この方は、診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業を利用して筑波大学で解剖された。生前CTと死後CTとを比べると、死後CTでは左の胸腔に大量の凝血塊が貯留していた。胸腔ドレーンの位置からは、肋間動脈は傷ついていないと考えた。解剖では肺の表面がわずかに傷ついていて、そこから出血していた。血小板が減少していたために、通常では止血されるであろう出血が致死的になってしまった。この報告書はインターネットで見ることができる。80代の男性。脳■塞、進行の直腸がんで入院中、ハルトマン手術を施行した半日後に急変し、1日後に亡くなった。生前CTと死後CTを比べたところ、大腸の内容物が腹腔内へ流出しており、院内の病理解剖でもそのとおりであった。手術とはまったく無関係の部位が■孔していた。このように院内突然死、医療過誤を疑う例に関して、解剖と比較した死後画像の特長は、即座に施行可能であるということ、CD-ROMで渡すことができる開示可能な客観的証拠となること、何よりも遺族との対話ツールになることである。われわれ自身も、患者が急変して亡くなったときに「なぜ亡くなったか」という情報をもっていないわけで、遺族と一緒に死因を究明するという態度を示すことができる。

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