Vol.46 No.1【シンポジウム】死後画像診断(Ai)の現状と将来特別企画今井)第3席は、筑波メディカルセンター放射線科の塩谷先生。Aiの教科書も書いておられる。私は塩谷先生とは厚労省の「死因究明に資する死亡時画像診断の活用に関する検討会」という会議でもご一緒させていただいた。海外のことにも精通され、多くの情報を提供いただけると期待している。塩谷)当院は、筑波大学と道一本隔てた向いにある中規模病院であり、救急救命センター、地域がんセンター、そして剖検センターをもっている。剖検センターには病理専門医と法医学専門医が在籍し、すべての種類の解剖を施行している。おそらく全国で唯一の、法医学専門医がいる市中病院である。Aiの実施は大別すると、救急外来の異状死、入院患者の突然死、そして警察依頼の検死に対して死因をスクリーニングするための死後CTと、解剖前のガイドとするための死後CTプラス(できるだけ)死後MRIがある。前者は亡くなった直後が多く、救急外来からそのまま布団をかぶせて運んでいる。後者は死後1日から3日経ったものが多く、警察から運ばれてくる場合は、しばしば専用のボディバッグに入れられて来る。①救急外来の異状死(外傷・病死) この方は道端で酔っ払って寝ていて頭だけ車にひかれた(図1)。外から見ただけでは外傷や身体の中の状態はわからない。CTを見ると、頭蓋骨が粉砕骨折していた。くも膜下出血といった致死性の出血性病変も画像診断で描出できる。このようなびまん性のくも膜下出血のMRIを撮ったところ前交通動脈瘤も見ることができ、解剖でもそのとおりであった。これは脳幹出血で、橋に出血があることがあらかじめわかっていたために、解剖ではこのように矢状断で割(カツ、切れ目)が入れられた。解剖と画像はよく相関している。大動脈解離では、偽腔の血腫や心嚢血腫から、画像だけでそれとわかる。腹部大動脈瘤の破裂と後腹膜血腫もすぐにわかる。これらはすべて、解剖所見と一致した。②救急外来の異状死(犯罪・事故)警察庁は1998年以降に発覚した犯罪死の見逃し事案を45件公表している。その第10番目の事件として、看護師連続保険金殺人事件がある。当初の診断名は心筋■塞だったが、発覚後の死因は空気塞栓、犯行形態は注射器で空気を注入というものであった。実は座長の池田先生の教室から発表された事例で、30代の男性が心肺停止状態で救急病院に搬送された。この方は大量にお酒を飲んだあとに心臓が止まっているのを妻が発見したというふれ込みだったが、実際には妻が血管内に空気を340mL注入していたという殺人事件であった。搬送された病院では死後CTが撮影されており非常に大量のガスが血管内に溜まっていたが、当時は死因不詳で病死の死亡診断書が発行された。Aiの概念が発表されたのが2000年で、事件はそれより前に発生した。当時から死後CTはいろいろな病院で施行されていたが、死後の正常像やデータ集積、知識の共有化はなされていなかった。次に50代の土木作業員の男性(図2)。当院の症例で、心肺停止状態で来院し、現場で倒れているところを同僚が発見したというふれ込みであった。この方も、表面から見ると擦過傷程度しかなかったが、死後CT上、肝臓周囲、脾臓周囲、そしてダグラス窩に大量の血性腹水を認め、解剖に回った。肝左葉外側区の破裂、肋骨の多発骨折、5塩谷清司筑波メディカルセンター 放射線科特別企画【シンポジウム】死後画像診断(Ai)の現状と将来筑波メディカルセンターにおけるオートプシー・イメージング(Ai)
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