図1 法医学領域の遺体の特殊性さまざまな条件の遺体体内ガスの分布の違い。a)空気塞栓:心・血管内にのみガスを認めるb)皮下気腫:軟部組織内にのみガスを認めるc)腐敗:全身のあらゆる部位にガスを認める 図1a図1b図1cVol.46 No.1【シンポジウム】死後画像診断(Ai)の現状と将来特別企画解剖は、この食道ステントを証明するというよりは死因診断するために、気道内に煤(すす)を証明して、生活反応を確かめることになる。残念ながら今のところ死後CT画像で煤がわかったという事例にあたっていない。今後、何とかしてそれを証明したい。大規模災害なども含め、個人識別では生前の歯科パノラマレントゲン写真が手に入れば、死後のCT画像からパノラマを合成して、これを重ね合わせするという技術がある。2009年に、私が留学中のオーストラリアで山火事(bushfire、原野火災)を経験した。かなり大規模で、東京都の2倍くらいの面積が焼失し、173名の住民が亡くなった。被害者全員をCTで撮ろうということなり、大規模災害としては世界で初めてCTが用いられた事案となった。症例数は、確認された当初288症例あった。これは、最初の時点では体がバラバラになり、同じ1体ながら足と頭で2体と数えられたり、コアラやカンガルーのようなヒトではないものも含まれたりしていたためである。それらをすべてCTにかけた。CTを撮ってみると、明らかにヒトの骨格であるということがわかり、子宮があるので性別は女性とわかる。さらに、こういった黒焦げの塊から骨盤が見つかる。いろいろ画像を動かしてみると、陰茎と前立腺があったので男性だ。そのほか、ペースメーカがあったが、行方不明者のなかに対象者は1名しかおらず、DNA鑑定を待つまでもなく、画像だけで個人が特定できた。こういった判定には生前の画像は不要であり、死後の画像だけで判断でき大規模災害においては非常に有用なツールとなった。東日本大震災の検案に私も赴いたが、残念ながら日本ではCTは利用されなかった。実際に警察官が検視したあとでわれわれが検案したが、CTがあれば非常によかったと思っている。最後に、私から提言をさせていただきたい。今後法医学分野の画像診断に必要とされるのは次のどちらだと先生方は思われますか。「画像の読める法医学者」か「解剖のできる放射線科医」。私はどちらでもないと思っている。本当に必要とされるのは「解剖のできる法医学者」と、「法医学的視点から画像が読める放射線科医」であり、この両者のコラボレーションがいちばん大事ではないかと思っている。この夢のコラボレーションの実現に向けて、今後各施設、先生方の施設で法医放射線合同カンファレンスの実施や、お互いの学術集3
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