2014年1月号
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Vol.46 No.1【シンポジウム】死後画像診断(Ai)の現状と将来特別企画池田)飯野先生に、法医学領域における死後画像診断の現状と課題ということでお話をいただく。大阪大学の法医学で学位を取られて、京都大学、大阪大学、現在慶応義塾大学で研究をされている。その間2006年にはスイスのバートプシーコースを修了し、さらにオーストラリアのビクトリア法医学研究所でforensic radiology の研究を積まれた。いわゆる法医放射線学という分野で、もっとも経験を積まれた方になろう。飯野)今のところ慶應義塾大学では死後画像診断は行っていないため、この6月まで勤務しておりました大阪大学の経験、および留学先のオーストラリアの経験を中心にお話ししたい。死因身元調査法では死因の確定には死亡時画像診断などの科学的な検査を必要とするとあり、死因や身元がわからない死体については死亡時画像診断が実施できると法律で明文化された。この法律により、これまでわれわれは、承諾解剖、行政解剖、司法解剖という3つの法医解剖を行ってきたが、この4月からは新法解剖とか調査法解剖と呼ばれる新しい解剖が増え、6種類の人体解剖のうち4つを法医学で行っている(表1)。法医学分野ではほとんどが警察取り扱いの異状死体である。先生方がふだん病院で扱っておられる、患者さんが亡くなった場合とどこが違うかお話ししたい。まず遺体の状態が非常に多岐にわたる。死亡・発見場所も病院とは限らず、火災現場であったり水中であったり土中であったり、死後経過時間も数時間のものから数年、数十年のものまで扱う。また損傷が激しいもの、中には遺体の一部だけであったりする。身元不明で年齢も性別もわからないもの、事件性のありなしと、実にさまざまである。そういった遺体を、医療機関で日常の診療に使われているCT装置などで撮像するのはいかがなものか、そもそも院外の死亡者を院内で撮像することの是非等が問われてきた。患者IDはどうなるのか、予約が入るわけでもないので、撮影時間帯はどうするか。また、院内の搬送は誰がするのか。看護師、技師は院内業務で多忙である。院内を警察官がストレッチャを押して遺体を搬送していいのか、感染や臭気の対策も必要になる、撮影代は誰が払うのか。こういった問題をクリアするために、現在わが国でも法医学教室に遺体専用機が徐々に普及している。全国で80ほどある法医学教室のうち15、6ぐらいまでは普及していると思われる。オーストラリアでの私の指導医クリス・オドンネル先生は、2008年に発表した論文で、「5年から10年のあいだに世界中の法医学機関が画像診断機器を利用する」と予想している。大阪大学の法医学教室で、実際に司法解剖で画像診断を利用する場合は、まず警察官から事件の発生状況を聞き、そのあと解剖室にある4列CTで撮像する。放射線科医も技師もいないので、私が撮像、読影し、解剖も行っていた。解剖後には鑑定書を提出し、場合によっては証人出廷することもある。遺体そのものが犯罪の証拠であり、動かすと証拠が壊れることがある。高度損傷死体などは、腕が折れたり、歯■が落ちたりすることが起りえる。また、カテーテルなどは医療過誤事例では非常に重要な証拠であり、抜去せずに、アーチファクトが出てもそのまま撮ることになる。また全身を撮影するのが基本である。死因だけが問題になるわ飯野守男慶應義塾大学医学部 法医学教室特別企画【シンポジウム】死後画像診断(Ai)の現状と将来法医学領域における死後画像診断の現状と課題

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