2014年1月号
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図1 解剖までにはさまざまな修飾が加わり、時間も経過する図2 冠状断膀胱外に空気が見える。・膀胱内には血腫を認める(○)。・前立腺と接する膀胱壁右側は限局して肥厚しており、後腹膜脂肪織にもガスがある(矢印)。【シンポジウム】死後画像診断(Ai)の現状と将来特別企画いいか」と質問があり、われわれが回答・指導した。前立腺切除術を行い2日後に亡くなった症例で、カルテには「13時に入室、それから15時5分に手術終了」という簡単な記載しかない。当然、医師は手術に集中しており、あとで記録を書くことになる。看護師も術中の記録、血圧や看護記録は書くが、何が起こったかなど詳しく書く時間はない。このようにカルテは証拠となりうるのだが、後から記載されることが多いため、必ずしも客観的な情報ではないのである。手術が終わっても出血が止まず、「8単位の輸血」という記載がある。この方はTUR-P前立腺切除を行い、出血した。膀胱の中にコアグラ(coagulant;凝血)がある。空気があるが、この空気がどうも壁外であることが画像でわかった(図2)。われわれの診断としては、TUR-Pをやったときに膀胱壁を損傷してしまったのではないかという意見を提出した。主治医の先生は最初、「何が起こったか私はわからない」という回答だったが、この画像を見て「もしかしたらそうかもしれない」と変化した。医療側の診療行為と因果関係があるという形で遺族に謝罪をして、和解が成立した。同じ施設の医療関係者が同僚の医師に向かってはっきり意見をいえるかどうかが、ポイントである。いろいろな感情が入りこむ余地がある。一方、同じ病院に所属する先生が画像を読んで正しい所見を書いたとしても、司法の場では役に立たない。第三者機関という形は、Aiを有意義に活かすための仕組みだと位置づけている。もう1例は腎生検を行い、その3日後に亡くなった症例。医師側は何が起きたか、外から見ただけではわからず、遺族側に説明ができない。遺族からすると、「やっぱり腎生検が原因ではないか」と疑心暗鬼になる。この状況では誰も納得しえない。Aiをやると、くも膜下出血だった。解剖も行い、くも膜下出血による脳底頸動脈の破裂がわかった。ただし、ポイントは腎臓であった。針生検をしたので当然出血はしているが、その量はわずかで、これでは死に至らない。死因は腎生検と関係がなく、くも膜下出血だということで、みなさんに納得いただいた。遺族からしてみると何が起こったかわからない。そういうときに「何が起こったかわかる証拠を出してください」という疑問に対する答えがAiである。この症例は、検査とは関係がなく医療関連死ではないということがわかり納得できた。誰も文句をいうことなく事前に訴訟を防いだ。もし、遺Vol.46 No.15

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